The KeMCo Review 02(特集:パブリック・ヒューマニティーズ)

The KeMCo Review 02

慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)では、KeMCoの活動に関連する諸領域における、学内外の研究や実践を共有化してゆくための学術誌、「The KeMCo Review 」(ケムコ レビュー)の第2号を、2024年3月に発刊しました。

 

The KeMCo Reviewについて

 

目次

刊行によせて

特集 パブリック・ヒューマニティーズ(Public Humanities)

・笠井 賢紀「地域コミュニティとの共同調査を通じた社会集団や行事における意味の発見―共生のレパートリーとしての民俗を事例に―」

・宮北 剛己「デジタル・パブリック・ヒューマニティーズの実践:慶應義塾ミュージアム・コモンズにおけるミュージアム・プラクティスズを変革する学生中心型アプローチ」

・鳥谷 真佐子、阿児 雄之、野口 淳「対話型ワークショップにより博物館価値を発見・評価するフレームワークの開発」

・野口 淳、高田 祐一、三好 清超、佐々木 宏展「3Dデータと書誌データを軸とした考古学・博物館資料のデジタル化、LOD化とパブリック化」

・岩浪 雛子、畑中 乃咲佳、山口 舞桜「問いかけ、対話する考古学展示:『構築される「遺跡」』展が目指したもの」

・本間 友「参加をひらく場としての展覧会:「構築される『遺跡』」展における参加のモダリティ」

 

一般論文/研究ノート

・松谷 芙美「雪舟の潑墨技法をめぐって―雪舟等楊筆「山水図」(慶應義塾センチュリー赤尾コレクション)を中心に」

・澤田 佳佑「映画館情報の蓄積と可視化:戦後の日本における消えた映画館」

・長谷川 紫穂「「土」をつくりながら:アート文脈における発酵文化の覚書」

・荒屋鋪 透「『風立ちぬ』岡鹿之助の挿絵:堀辰雄の岡鹿之助宛絵はがき(新資料)をめぐって」

 


 

  • 著者など

    編集

    慶應義塾ミュージアム・コモンズ 編集委員会
    町出 美佳、長谷川 紫穂、松谷 芙美(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)

    デザイン

    尾中 俊介(Calamari Inc.)

    発行

    慶應義塾ミュージアム・コモンズ

  • 判型・ページ数

    B5版、181ページ

  • PDF

  • 価格

    無料

  • 発行日

    2024年3月31日

 


 

The KeMCo Review 02 特集 「パブリック・ヒューマニティーズ」

 

近年、「パブリック・ヒューマニティーズ」という言葉で語られる、パブリックな視点に根ざした人文学分野の活動が多様に展開しています。「パブリック・ヒューマニティーズ」の定義や解釈は広範囲にわたるものの(Susan, S. 2022)、実践に重きを置く姿勢を共有しながら(Jacobson, M. F. 2020)、例えば欧米では、学際的な側面をもつひとつの学問領域として認識され、専門的に学べる学科やプログラムが多くの機関で提供されています(May-Curry, M. & Oliver, Y. 2023)。ここ日本では、デジタル・ヒューマニティーズの勃興と呼応するかたちで、歴史研究における専門知のあり方を問い直す試み(岡本 2022)やデジタルデータを広く社会にオープンにしていく取り組み(後藤 2019)、デザイン研究と交差させた展開(宮北 2019)など、理論と実践、双方の観点から議論が進んでいます。

この広義のパブリック・ヒューマニティーズはまた、いわゆる「アカデミア」に捉われないことを前提としつつ、ゲーム、ポッドキャスト、映画、漫画、舞台、展示、クラウドソーシング、SNSなど、幅広くそして新しいメディアをその領域に取り込みながら展開しています。また、そのフィールドは大学や学校、GLAM(Galleries、Libraries、Archives、Museums)などの教育・文化機関を超えて、地域やコミュニティ、そしてデジタル空間にも広がり、さまざまな人々が複合的な視座の元に知識を協働で創造していく活動が行われています​​(Noiret et al. 2022, Cauvin, T. 2022)。

慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)では、慶應義塾内外の教員や学生とのコラボレーションのもと、展覧会、ワークショップ、現代アート・プロジェクト、デジタル・アーカイヴの設計などを通して、パブリック・ヒューマニティーズに接続する実践を行ってきました。2023年に民族学考古学研究室とともに開催した「構築される『遺跡』」展では、展覧会参加者から寄せられた問いを会場に展開し、展示された遺物について、また「遺跡」という枠組みについて企画者と参加者の対話を生み出すことを試みました。2018年から継続している現代美術家山田健二氏とのプロジェクト「Mita Intercept」では、キャンパスで活動する教職員や、三田という地域に集う人々の語りを元に、映像インスタレーション作品を造形しています。また、KeMCoが設計と運用に携わるデジタル・アーカイヴ「Keio Object Hub」では、所蔵資料情報のオープンデータ化とその活用に取り組んでいます。

このような背景から、The KeMCo Review の第2号では、パブリック・ヒューマニティーズを特集として設定し、国内外の実践や研究を広く参照する機会とします。
大学だけではなく、ミュージアム、ライブラリ、アーカイヴ等の文化機関をはじめ、幅広いフィールドにおけるパブリック・ヒューマニティーズに接続するさまざまな取組を歓迎します。