KeMCo国際シンポジウム|本景——書物文化がつくりだす連想の風景

本景——書物文化がつくりだす連想の風景

書物は、文化財であると同時に文化的実践です。書物が多様なアートのネットワークのなかで生み出す文化的風景、そして新たな視点の提供について多角的に検討します。

 

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  • 日付

    2021年5月29日(土)18:00-21:30

  • 場所

    オンライン(Zoom Webinar)

    ご参加には事前申し込みが必要です。下記URLよりお申し込みください。

    https://keio-univ.zoom.us/webinar/register/WN_u5VK_O3iTjODQi4zESJuTA

  • 対象

    どなたでも参加いただけます

  • 費用

    無料

  • お問い合わせ

    慶應義塾ミュージアム・コモンズ

    03-5427-2021

    hello@kemco.keio.ac.jp

言語

シンポジウムは日・英のバイリンガルで開催されます。発表は英語あるいは日本語でおこなわれ、翻訳が字幕で提供されます。ディスカッションは日英両言語で参加可能です。

 

プログラム

開会の挨拶 松田 隆美(慶應義塾ミュージアム・コモンズ機構長、慶應義塾大学文学部教授)

 

第1部:未来の「本景」-方法論と文脈における新たな試み(18:10-)

書物コレクション・アーカイブのキュレーションと物質文化研究-方法論的挑戦の探求

クリスチャン・イエンセン(大英図書館前収書・司書部長)

 

躍動するアーカイブとしての書物:古書への新たな科学的アプローチ

アレクサンドラ・ギレスピー(トロント大学副学長)

 

KeMCoにおける書物の風景-書物のマテリアリティとミュージアム

松田 隆美(慶應義塾ミュージアム・コモンズ 機構長/慶應義塾大学文学部教授)

 

第2部:グローバルな文脈でみる日本の「本景」(19:40-)

書物の芸術とアートとしての書物

アレッサンドロ・ビアンキ(ボドリアン日本研究図書館 館長)

 

日本の特小本の伝統について

佐々木 孝浩(慶應義塾大学附属研究所斯道文庫教授)

 

明治期の装丁が映し出す近代化の様相

徳永 聡子(慶應義塾大学文学部教授)

 

ディスカッション(20:50-)

 

クリスチャン・イエンセン、アレクサンドラ・ギレスピー、松田 隆美、アレッサンドロ・ビアンキ、佐々木 孝浩、徳永 聡子

モデレーター:本間 友(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師) 

 

閉会の挨拶 渡部 葉子(慶應義塾ミュージアム・コモンズ副機構長、慶應義塾大学アート・センター教授)

 


 

アブストラクト

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クリスチャン・イエンセン(大英図書館前収書・司書部長)

The curation of collections of books and archives and the study of Material Culture – an exploration of a methodological challenge
書物コレクション・アーカイブのキュレーションと物質文化研究-方法論的挑戦の探求

 

本格的な図書館と強力な美術史の伝統をもつ、ある著名なイギリスの研究機関で、‘Material World’というセミナーが最近開催された。その目的は、「歴史学、美術史、文化史、考古学、人類学、宗教史、博物館学など、幅広い分野の研究者や文化遺産の専門家を集結する」ことにあった。しかし、書物についての言及はなく、どうやら書物は、物質世界の重要な一部とは認識されていないようである。書物芸術の研究は確立していて、それが物質文化の研究とされている場合でも、美術史も博物館学も、書物を物質世界の一部として受け入れることを困難と感じてきた。
私の発表では、この認識は定着したキャリアパターンとそれと関連する固定的な思考パターンによって確立、あるいは再確認されているものだが、この困難さは、書物の複雑な性質に起因する本質的に観念的なものであることを提案する。つまり、書物は意味の運び手だが、その意味は無限に複製可能で、それを運ぶオブジェクトから切り離しが可能と見なされているのである。このことは、私たちを取り巻く物理的な証拠とは対照的である。少なくとも西ヨーロッパでは、書物は、デジタル化以前の過去の遺物として、最も数多くの残っているもの一つである。本を博物館の対象物として、あるいは博物館の対象物の文脈で考えたいのであれば、何故そのことが困難であったのかをまず理解しようとすることが有益である。私の発表は、この知的挑戦の本質を理解することを目的とする。

 

アレクサンドラ・ギレスピー(トロント大学副学長)

Book as Vibrant Archive: New Scientific Approaches to Old Books
躍動するアーカイブとしての書物:古書への新たな科学的アプローチ

 

書物は、人間が作った他のどのような人工物よりも多くの数で過去から伝わっている。過去の手作りの書物は、昔の人々の言語、文字、芸術、物語などの貴重な証拠にとどまらず、人間と非人間との出会いを伝えてくれる生きて躍動するアーカイブでもある。それは、言葉であると同時に、獣皮の調製であり鉱物顔料であり、インクだけでなく虫の痕跡もとどめており、宗教や政治の動乱だけでなく、疫病や気候の変化の証人でもある。

本発表では、「書物」を、自然界から採取され、文字の記録を残すために手作りされた書くための表面であると大きく捉えることとする(Gillespie, 2019)。書物は、巻物、紙葉、屏風、冊子、タブレット、さらには立石でさえありうる。無数のこうした書物が歴史のなかで失われ、生き残った書物もその秘密の多くを未だに隠したままである。私の発表では、これらの意味を明らかにし、多様なテキストやスクリプトを、書物の素材や物理的な構造、そして何層にもわたる付加物とともに読み解くためには、革新的で学際的な研究手法を結集する必要があることを指摘する。トロント大学のOld Books, New Science Labが展開している、人文学的探求と技術的プロセスを融合した取り組み――本の内部構造をモデル化し、密度によって本の素材(木の種類など)を特定するためのμCT、ページや本の糊に使われている動物種を特定するためのeZooMSと統合プロテオミクス、本につくカビや菌類を研究するための菌類学など――について論じる。

 

アレッサンドロ・ビアンキ(ボドリアン日本研究図書館 館長)

The Art of the Book and Books as Art
書物の芸術とアートとしての書物

 

本は単にテキストではない。手書き写本や印刷物の制作において、アートは常に重要な役割を果たしており、何世紀にもわたって、書物を豊富なパラテキスト装置(挿絵、彩色、特注の表紙、書体、タイポグラフィー)で飾ってきた。20世紀に入って、前衛芸術、コンセプチュアル・アート、そして最近ではデジタル・アートというかたちで、書物が芸術的な試みの媒体、そして新しい美的感覚を広める手段となると、書物のかたちを用いたオリジナルのアート作品が創られるようになった。本発表では、アーティスティックな創意、パラテクスト、マテリアリティの関係性を通じて、書物生産においてアートが果たした役割を探る。

 

佐々木 孝浩(慶應義塾大学附属研究所斯道文庫教授)

日本の特小本の伝統について
On the tradition of miniature books in Japan

 

特小の書物は世界中に存在しているが、日本は特に長いその伝統を有している。年代が明確な世界最古の印刷物と言われる「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」は、日本最古の特小本であるとも言える。以後日本では様々な形態や内容の特小本が作り続けられてきた。17世紀に商業出版が確立すると、特小本の版本も盛んに製作されるようになった。それらには日本の書物の一つの特徴である、挿絵を有するものも少なくない。この発表では、できるだけ多くの現存例を対象として、その大きさや造本、内容の特徴などを確認しつつ、8世紀から19世紀頃までの日本の特小本について、実用性・装飾性・趣味性など、その製作目的を幾つかに分類整理しながら、日本の特小本の歴史と伝統を辿ってみたい。

 

徳永 聡子(慶應義塾大学文学部教授)

Modernization in Japanese Book Design: A Glimpse into the Meiji Period
明治期の装丁が映し出す近代化の様相

 

書物は歴史の証人のごとく、社会的、文化的ならびに技術的変革を映し出す。本発表では、日本が西洋から政治経済や社会システムを導入することで近代化を遂げた明治期の書物生産に注目する。19世紀後半、日本の印刷業は徐々に西洋化と機械化を遂げ、それに伴い書物の装いも和装本から洋装本へと変化していった。本発表では、こうした造本上の変化を、とりわけ旅行案内書を中心に検討する。明治期に出版された旅行書は、江戸時代からの名所図会などの伝統を引き継ぐ一方で、次第に、鉄道や海上航路等の発展の影響を反映するようになる。こうした変化をモノとしての書物にたどることで、本に刻み込まれた文化的風景の諸相を読み解く意義について一考を加えてみたい。

 

松田 隆美(慶應義塾ミュージアム・コモンズ 機構長/慶應義塾大学文学部教授)

KeMCoにおける書物の風景-書物のマテリアリティとミュージアム
Book-scape at KeMCo: materiality of the book in the museum context
 

 

書物が固有にもつオブジェクトとしてのマテリアリティ(質感)は、本質的にメディアの一形態である書物を唯一無二の文化財へと転換させるが、マテリアリティは書物の可動性と不可分であることを認識する必要がある。可動性は文化財の本質だが、書物の可動性はそのパラテクストによって、オブジェクトと情報の両面で実現される点に書物の特徴がある。本発表では、そうした書物の質感と可動性が、ミュージアムの文脈によって如何により先鋭化されうるかを、KeMCoの試みとともに検討する。フィジカルな空間とデジタルなアーカイブが融合されたミュージアムでは、書物の質感を最新のデジタル技術によって捕捉するだけなく、書物固有の可動性を再現、創造し、書物が持つ潜在的リアリティを拡張することがもとめられている。

 

主催

慶應義塾ミュージアム・コモンズ

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